第1章

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先輩から電話が来ました。 「どうしたの? 風邪でも引いたかな」 「いえ」 「ああ、そういえばさ……」 「はあ? 」 「俺が拾ってきた白いメス犬は 覚えているかな? 」 「……はい。覚えてますよ」 元気ですか? とは敢えて 聞かなかった。聞けなかった。 ああ、とうとう実験に 使われちゃったんだ! 涙が出そうになった。 ギュッと目をつむり、 次の言葉を待った。 「あの犬さ……逃げたんだよ」 「に、逃げた?! 」 「それが……逃げるだけじゃなく、 屋上からダイブしやがって大怪我 したけど生きてたんだよ」 い、生きてた……良かった。 私はホッとはしたが怪我が 気になった。 「それで、大怪我は? 」 「一応、治療したよ」 「ああ、良かった。で、 状態は? 」 「内臓破裂とかは大丈夫だった けど複雑骨折が酷いから犬の 新しい痛み止めの実験を兼ねて アイツは死ぬまで研究所内で 飼う事になった」 「死ぬまで飼う?! 実験には使われないで 済むんですね? 」 「そうだ」 「本当に良かった」 「名前が付いたしな」 「名前が……」 「明日は来いよ」 次の日、第2薬理学研究室の 屋上の犬小屋に行く途中、 先輩に会った。 「プッ、やはり愛着が 沸いてたんだなぁ~。 フランケンは治療中だから 此方だ」 と違う場所に 案内された。 「フランケン? 」 「アイツの名前。不死身って意味。 七階の屋上からダイブして 生きてるなんて不死身だからな」 不死身……フランケン…… 白くて綺麗な可愛いメス犬なのに? 「ここだ」 包帯だらけのあの白い犬に 私は近付き…… 「大丈夫? 」 と、頭を撫でると優しい瞳で 私を見つめ返してくれて 私の手を舐めた。 涙が……零れた。 私は守ってあげられなかったけど アナタは自力で脱出したんだね。 こうしてフランケンは 生きてる限りは研究所で 飼う事が出来る犬になった。 死刑囚でも死刑執行の際に 失敗して生き残れた場合、刑罰は 執行されたとして生きていける んだよ……とは助けた先輩が 言っていた。法的な詳しい事は 私には分からないけれど。 犬好きな私には大学院での 犬での実験は無理だ。 それから数年後ーーー 今はその大学に居ないから 分からないけどフランケンは 元気で無事に寿命を全う 出来たかしら? ダイブして死んだら 犬でも自殺よね? 寿命なら今頃は天国かな? どうか 幸せでありますように…… ー了ー
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