804人が本棚に入れています
本棚に追加
ひとりごとのようにつぶやいた声に、お師匠さまは反応しなかった。ぽんぽんとオレの肩を叩き、離れた場所へと歩いていく。最期の別れをしろという意味だろう。冷たくなったジュリアをみても、まだその死を認めたくない。
どうしてそんなに悲劇の主人公になりたがるの? いつかのジュリアの言葉がよみがえってきた。誰だって、悲劇の主人公になりたくなんかない。日常に変化はなく退屈な日々でも、平穏に暮らしていければそれが一番いいに決まっている。ジュリアはいまのオレをみてどう感じるだろうか。ねがわくば、またあの日のように、くだらないと笑っていてほしい。
天を仰ぎむせび泣くオレは、かすかな違和感の正体にさえ気づけずにいた。ジュリアを失った悲しみはあまりに深く、オレの感覚を鈍らせている――このときは単純にそう思っていた。
第一部 完
第二部【零下の口唇】へ続く。
最初のコメントを投稿しよう!