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蘭学園高等部の第二校舎一階端、そこに此処保健室はある。
天井から壁、床は落ち着いたアイボリーで統一され、幾つか並ぶベットの寝具は全て白。
微かな薬品の匂いと清潔感の漂う閉鎖的な空間だ。
尚君こと《朝霧 尚(アサギリ ナオ)》は広大な学園に勤める唯一の保健医で、金髪に着崩したシャツと白衣が良く似合う美丈夫だが、その格好はお世辞にも養護教諭とは言えないだろう。
真雪、と呼ばれた生徒はそんな尚をホスト教師ならぬホスト保健医だと密かに思っていたりする。
今はとっくに放課を迎え大抵の生徒が下校を終える時間帯だ。
そんな中、常になくテンションが上がり頬を紅潮させた真雪に面倒臭そうな顔を欠片も隠しもしない尚は詰め寄られていた。
「尚君、尚君、尚君っ!」
「分かったから落ち着け。うるせぇ」
「これが落ち着いていられるとでも!?転入生だよ、転入生!」
「……はぁ」
尚は心底疲れたと言わんばかりに大きな溜め息を吐いた。
真雪だってその姿に罪悪感が芽生えない訳じゃない。
が、この上がりに上がった興奮が冷めやらないのだから仕様がない。
「まさか本当にお前の妄想通りになるとはな」
「妄想じゃないよ!この時期に転入生が来るのは決して覆せない運命、この世の理なんだよ」
「…阿呆か」
強く否定出来ないのは現に今、以前真雪が言った通りの展開を迎えているからだ。
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