【9】半分の嘘と幸宏の真実

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「言葉って不自由なものね。単純に『わかる』と言って、私の思いがあなたに伝わるのかしら。でも……不自由だから人は解り合いたいと願うの。この本はあなたが大切にしている、中心の存在。私も同じ立場だったら守ったと思う。だってどれも重いもの。担うのも引き受けるのも辛い。だけど、あなたはどれも捨てられない人なんだわ」 幸宏は大きく頷いた。 「ありがとう」 何故か鼻の奥がつんとして、感極まった。 「これが本当のあなたなのね。……私に、見せてくれてありがとう」 目を上げた先には幸子がいた。 「今度は私の番ね」 首を傾げ、一度言葉を飲み込んだ後、彼女は続けた。肩に力が入っていて、強張っているのがわかって。 幸宏はただ待った。 「私にも、……あなたに伝えてないことがある。武君にだけは知られたくなくて黙っていたの。多分、学校内で知らないのは武君だけかもしれない」 「慎君は知ってる?」 「ええ……行きがかり上、知られてしまった」 「……妬けるな」 彼女の眉間に皺が刻まれ、当惑の色が浮かぶ。 「仲間はずれはないよ」 「ごめんなさい、でも……」 「聞くよ」 幸宏は静かに言った。 「人にはどうしても口外できないこともあるよね。それこそ墓に持っていくようなこと。時が満たなければ無理にしゃべらなくてもいいんだ。もちろん、今も。だけどね、思うんだよ。僕は、学校で君と出会って、過ごして、僕が知った君だけで充分なんだ。だってさ、僕が登場しない過去の話は未来に必要ないじゃない?」 空気を和ませたくて、わざとおどけて言った。 彼女には彼の意図はもちろん伝わっていた。 肩がほう、っと落ちたからだ。 「ま、しょってるのね」返す言葉が弾む。 「しょってる?」 「そう。まるで舞台の中央に立つのは自分で、その他は関係ないと言ってるみたい」 「もちろん。でも……嫌な奴かな」 「ううん。あなたらしい」 このやりとりは、少し前まで普通に行われた、幸宏と幸子のコントだ。 いつまでもじゃれるように掛け合っていたい。けれど、それはいつでもできる。 「さっちゃん、いや……幸子」 「武君」 「本当は君はどうしたい?」 「……知って欲しい、私のこと……教師をしてた頃のこと」 「うん」大きく、うなずいた。 「僕も知りたい。だから僕を信じて。君のこと、知らせて」
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