【9】半分の嘘と幸宏の真実

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怪我をした翌日、身体が満足に動かなかった。 その翌日、痛みは今までと変わりがなかった。 今日は僕担当の講義があったはず。休講になっているのか、それとも誰が代わりを務めているんだろうか。 自分がいなくても世の中は粛々と動いていく。 取り残された気がした。 お節介なことに、柊山は郷里の伯父に負傷の件を電話で知らせていた。 手伝いの者を向かわせる、と電報が届き、それは無用と伝えたくても電報を打ちに行くのも煩わしい。 もう、好きにしてよ。 そしてその翌日。日常生活に支障が出てきているのがわかりだし、舌打ちに近い失望がやってきた。 負傷して以来、ロクに食事もとらず、右半身の鈍痛と空腹を抱えて日がな一日布団の上で大の字になって仰臥した。 手伝いを差し向けるって言ったの伯父さんじゃないか。 来ないぞ―、だれも来ないんだぞ! 的外れな恨み言を天井に向かって吐く。 そんな最中、玄関の引き戸が三度、続けて叩かれた。 三回ノックをする者と言ったらひとりしかいない。 慎だ。 先のアパートでもそうした。呼び鈴の忙しない音が嫌いだといってノックをした。 「いないよ、留守だ!」 幸宏は大声を上げた。 その途端、肩に鈍痛が走る。
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