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声出すだけで響くんだよ。
芋虫のように縮こまりたくてもままならず、幸宏はもがいた。
「留守!」
出す声は力がないものになる。
再度三回、がしゃがしゃと引き戸は音を立てた。
応答しないでおいたら、さらに三回。
もう、しつこいなあ、ガラスが割れたらどうしてくれんのさ。
仰向けになった身体を左側を下にして何とか横に向け、畳を何度もかいて身を起こす。
肩と腕を庇いながら、しかもまだ怪我した状況に慣れてない。
「いいから勝手に入ってこいよ」
ううう、と情けなく呻き、広くはない室内を横切り、玄関へ向かった。
「しつこい!」
三和土には放り込まれた新聞が数日分そのままになっている。
「留守だって言ってるだろう!」
つま先で引き戸の桟に足をかけて開けた先には、慎はいなかった。
代わりに立っていたのは。
胸に風呂敷包みを抱え持つ幸子だった。
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