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幸宏はしばし彼女の顔を凝視する。
視線を受け止めて、しきりに後ろを気にしながら、でも、浴衣の合わせ目から覗く、サラシで代用した固定具を見た幸子の顔はたちまち驚きで歪む。
……こんなところ見られたくなかったのに。
自分から目線を外して、「何しに来た」と言うところが。
「慎君かと思って」と口走っていた。
「ええ。いたわ」幸子も答える。
「ついさっきまで、戸を叩くだけ叩いて、あなたが引き戸を開ける寸前、立ち去ってしまったの」
「逃げ足の速い。図体でかいのに妙に機敏なんだよな」と口にした。
「ホントにね。あっという間に角曲がって行っちゃったの」幸子も受けて言う。
ほぼ同時に、ふたりは吹き出していた。
もう幸宏は、「何しに来た」とは言えない。心にもない言葉は吐けない。
視線を足元に落としてふたりはそのまま立ち尽くす。
「尾上君に連れられて来たの」
「うん」
「あなたが怪我したって聞いて」
「そう」
「柊山先生からも……呼ばれて」
小父さんが?
「心配になって……」
「そう」
「……半分は嘘」
嘘?
幸宏は顔を上げた。
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