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◇ ◇ ◇
「怪我の具合はどう?」
流した涙の数が多い分だけ、昂ぶった心は平常を取り戻すのも早い。
案内された部屋で、幸子は両手の甲で頬をこすりつつ言う。
「ご覧の通り」
「鉄棒から落ちたんですって?」
「そう。それを誰から」
「柊山先生から」
「小父さんが?」
「ええ。今日、学校で伺って、しばらく出勤できないって」
「その通りなんだけど、何故、学校へ?」
「先生に紹介状をお願いしたくて」
「紹介状?」
「ええ。……今、おじさんって言ってたけど」
「うん、伯父貴の縁で子供の頃から懇意にしてもらってたんだ。長年の知り合いってところかな。で、なんで紹介状?」
「お掃除は?」
「は?」
「お洗濯はたまってない? ご飯はどう?」
「どちらも何とか」
「うそでしょ」
幸子は断言する。
「歩くのも痛そうなのに、お米研いだり、箒使ったりできるわけないでしょ。まず、お洗濯から片付けるわね」
「いい、やらなくて、いい!」
止めようとして立ち上がり、幸宏は肩の鈍痛に呻いた。
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