3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「ほら。無理しないの。先生からもね、手伝いをしてくれって頼まれたの」
「何だって!?」
柊山から話が出たのなら、依頼主は伯父だ。
「私なら平気よ、家族の洗い物で慣れてるから」
それはそうだろうけど。
「……いいわけないだろ、だって君は」
ちょっとムッとして、幸宏は言い淀む。
「なあに」返す言葉はいつもの幸子だ。
拍子抜けして、けど避けられないひとことを口に出す。
「君は、人妻だ」
目を見開いた彼女も拍子抜けをしている。
「私が?」
「そう、ご主人がいるのだろう」
「私が……」言いかけてはっとなる。
「あの、ね、武君」
「うん」
「私、あなたに言ってないことがあるの。けど……今は先にお洗濯を済ませるわ」
「だから、どうしてそうなる!」
「だって、早く干さないと乾かない」
奥、失礼するわね、と言って手に持った風呂敷包みを置き、幸子はさっさと洗い場へ向かう。
満足に動けない彼を見越しての軽やかさだった。
かくて小一時間後。
物干し竿には男物の洗濯物が大量にはためき、初夏の乱暴な風にあおられていた。
汚れ物を山ほど洗わせることになるとは。知らず、幸宏は赤面する。
伯父さんが早く手伝いを寄こしてくれればよかったんだ。
けど、寄こしたから幸子がいるのか。
どうしたものやら、とふてくされて外に目を転じた。
居間の窓は全開で風が通され、庭には。
鼻歌を歌いながら草むしりをする彼女がいた。
最初のコメントを投稿しよう!