【9】半分の嘘と幸宏の真実

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「ほら。無理しないの。先生からもね、手伝いをしてくれって頼まれたの」 「何だって!?」 柊山から話が出たのなら、依頼主は伯父だ。 「私なら平気よ、家族の洗い物で慣れてるから」 それはそうだろうけど。 「……いいわけないだろ、だって君は」 ちょっとムッとして、幸宏は言い淀む。 「なあに」返す言葉はいつもの幸子だ。 拍子抜けして、けど避けられないひとことを口に出す。 「君は、人妻だ」 目を見開いた彼女も拍子抜けをしている。 「私が?」 「そう、ご主人がいるのだろう」 「私が……」言いかけてはっとなる。 「あの、ね、武君」 「うん」 「私、あなたに言ってないことがあるの。けど……今は先にお洗濯を済ませるわ」 「だから、どうしてそうなる!」 「だって、早く干さないと乾かない」 奥、失礼するわね、と言って手に持った風呂敷包みを置き、幸子はさっさと洗い場へ向かう。 満足に動けない彼を見越しての軽やかさだった。 かくて小一時間後。 物干し竿には男物の洗濯物が大量にはためき、初夏の乱暴な風にあおられていた。 汚れ物を山ほど洗わせることになるとは。知らず、幸宏は赤面する。 伯父さんが早く手伝いを寄こしてくれればよかったんだ。 けど、寄こしたから幸子がいるのか。 どうしたものやら、とふてくされて外に目を転じた。 居間の窓は全開で風が通され、庭には。 鼻歌を歌いながら草むしりをする彼女がいた。
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