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草むしりに先立ち、洗濯を済ませた彼女は、敷きっぱなしだった床上げをし、布団を外に出した。これも風に吹かれてばたんばたんと重い音を立てている。
次に掃除をした。箒を使って塵を除き、畳の目にあわせてぞうきんがけをする。手際が良かった。
今はといえば外で草むしりだ。瞬時も休んでいない。
学内で共に学んでいた時もそうだった。
きびきびとよく動いた。
「雑草だらけで、もう」
鼻歌の節に合わせて言いながら、草をぶちぶちむしっている。
無残にむしられた草の山に新たな草を乗せようと手に掛けた雑草を、何故か引き抜けず、迷う手の先には小さな青い花が繁茂していた。
オオイヌフグリの可憐な小花。
風に吹かれてそよそよと揺れる。
肩をすくめ、「いいわ、このままで」と言い、立ち上がる彼女のスカートがふわりと拡がる。
腰掛けていた縁台から一歩踏み出した足が砂利を跳ね、音を立てた。
それに気づいた彼女が振り返る。
どんな顔をするだろう、掃除洗濯に草むしりだ。
家事全般に疎い僕に呆れているだろう。
少し弱気になっていた幸宏の期待は別の意味で裏切られた。
最初に浮かんだ表情には、嬉々とした色で充たされていたから。
彼女は小柄で、何もかもが小作りで、握り潰せば簡単に、鶏を潰すように首をひねれてしまうくらいか弱い。
でも、内面は、我が強くて、少し素直ではなく、かなり面倒くさい女性だ。
けれど、生き生きとして可愛い。真面目で律儀で、おそらく働き者だ。
僕は全てを愛する、君なら愛せる。
何があろうと、受け止められる。
僕の隣に立つ人は、君だけだ。その為なら何でもする。
はあーっと両肩を落とした彼の姿に、幸子は驚く。
「武君?」
「……った」
「えっ」
「君がいてくれて。――本当によかった」
手に持つ抜いたばかりのペンペン草をくるくる回して幸子は顔を赤らめる。
武は身をかがめ、地面に咲くオオイヌノフグリを摘んだ。
扱いにくい左手で不器用にぷちりぷちりとちぎれる茎を束ねて、彼女に差し出す。
ささやかな花束だ。
「もう、かわいそうでむしれなかったのに」と幸子は口をとがらせ。けれど、手の平で花を受け止め、戴く。
「君の花だよ。小さくて、可憐で――愛しい」
頬に赤みを上らせて、幸子は「ありがとう」とはにかんだ笑みを浮かべた。
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