第1章

3/32
前へ
/32ページ
次へ
「ミユキ、昨日急にキレて、店出て行くからリューマやけ酒してたぞー。 だいぶ呑んでフラフラしてっからタクシー乗らせて帰らせた」 朝出勤してヨシにそう言われる。 ヨシも髪をカットしたから前髪も短くなってだいぶ爽やかだ。 「ゴメン。もう余裕なくなるほど、リューマに腹が立って」 朝の開店の準備を始めながら、ヨシにそう言うと 受付カウンターにいたヨシが私に近寄って、 彫り深い顔を私の頬に寄せてきた。 なっ……なにっ?! キスされるのかと思い、思わず身をよじってヨシから離れる。 「ミユキの香水の匂いか。めずらしいね、香水つけんの……ってか 何キョドってんの? キスでもされると思ったわけ?」 ヨシがニヤリと口の端を上げて、からかうように私を見た。 「思ってない!ビックリしただけ」 私はヨシから離れ、 待ち合いの清掃を始めようと ホコリ取りのはたきを手に取った。 他のスタッフも各々の持ち場の清掃をしている。 「コロン……?香水? 誰からか貰ったんだ? ミユキそうゆうの自分から買ってつけたりしないじゃん」 「ナオトさんに昨日貰ったの」 「ナオトってミユキを指名した香水マニアか」 何故かヨシが不機嫌そうな顔をした。 「昨日、貰ったの?いつ?サロンには来なかっただろ?髪カットして、そのあとオレら居酒屋行ったんだから」 「…………」 なんでそんな事追求してくるんだろ。 答えるのが億劫に感じながらも、口を開いた。 「帰ってる途中に、香水出来たからって連絡があって」 「あの後会ったのか?」 「うん……」 何故か表情が険しくなるヨシを見て、 これ以上追求されるのがイヤで 持ち場を離れようとしたら ヨシの一撃を食らった。 「旦那を振り切って、他の男と会ってるって、それどうなの?」 「海外にしばらく行ってしまうから、早く香水を渡したいって言われたから」 なんで、そんな風にヨシに言われなきゃいけないの。 「でも、あんな状況で飛び出すように出て行って、夜遅い時間に他の男と会うなんて……ミユキそんな軽い女だったか?」 皮肉にも聞こえる ヨシの低く冷めた声が、私の気分を不快にした。 「ファミレスでゴハン食べただけだよ。ヨシには関係ない」 少し荒げた声を出すと、 ヨシは、不機嫌な顔をしたまま パソコンに視線を移した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加