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パールデュー駅からトラムに乗り換えた。
真っ白なフォルムで細長いつくりだったが、
東京の路面電車の真四角さとは異なり、
先が丸みを帯びた新幹線のようなころんとした顔をしている。
窓が大きく市内の様子が良く眺められ、
乗っている人が少ないというのもあるからだろうか閉塞感がない。
ルイ14世が騎馬にのった銅像が視界に入ってきた。
真っ赤な赤土の絨毯を敷いたベルクール広場前を通過する。
ようやくリヨンの街並みを観ることが出来て
安堵のため息をついた。
スーツケースを脇に寄せ、シートに腰かけた。
低い建物のせいか、空が近くに感じられる。
ようやく目的地近くの駅へと降り立った。
この街は、いつも甘い香りが漂っている。
春を迎えたリヨンのマルシェは
甘酸っぱいベリーたちの果実のかおりと、
色とりどりの花の香りでむせ返っていた。
ごつごつとした石畳みの緩やかな坂を
ヒールの先を石畳を繋ぐ隙間に押し込まないように
気をつけながら登った。
坂の上に、私が求めている場所がある。
黒のベロア帽を被った少年少女たちが、
路面に止められたワゴンの前で列を成している。
ワゴンの店主がクロワッサンの間に
チョコレートのパテをリズミカルに塗りナッツを振りかけたあと、
パラフィン紙でくるくると巻いていった。
それを受け取った子供たちが、
口元をクロワッサンのカスと、
チョコレートだらけにして通りを歩いていく。
つい先ほど下校時間になったばかりなのだろうか、列は増える一方だ。
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