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「旅行?強がっちゃって。
フロントに小栗君の今の居場所を尋ねてたくせに。
別れたって噂、本当だったんだな。
付き合ってる彼女なら、彼の連絡先を知らないはずないもんね。
本当は、旅行じゃなくて、
小栗君に逢いに来たんだろ?」
彼の質問に答えずに石畳が続く通りを眺めた。
色とりどりのナップザックを肩にかけた学生が
楽しげに歩いてゆくなかに、彼の姿を捜す。
阿部さんと同じマンションに住んでいるのなら、
彼と同じ行動範囲にいるかもしれない。
通りに小栗らしき影を探してみたが、そうそう運はめぐっては来ないようだ。
「この通りの先にあるブション(レストラン)は、僕の行きつけなんだ。
そこの手長エビのラングスティーヌソースがかかったクネル
(川マスなどの魚のすり身にソースとチーズをかけて焼いたグラタンのようなリヨンの郷土料理)が好物でね。
時折、店に足を運ぶんだ。
そこに、丁度、
スーツケースを引き摺る君の姿が、店の窓から見えた」
「店からここまでつけてきたの?」
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