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青とオレンジの光に包まれていたエレベーターホールは、
青白い影を落とす薄暗い場所へと変わっていた。
夜の闇のなかに浮かぶ十字架が私の胸の真ん中に刻まれている。
リヨンに何を求めにきたのか、ようやく分かった。
別れを切り出されてから今までずっと、彼を忘れられなかったのは、
彼が今もなお、私を愛しているからだと心の何処かで信じていたからだ。
あの日の別れは、きっと離れなくてはならない理由が別にある。
今も私を想ってくれている。
それは、自分勝手な幻だった。
もう、彼と恋をしていたころには、戻れないのだ。
十字架が私を通り過ぎた後、エレベーターのボタンを押した。
点灯しないエレベーターは、いつまでも静かなままだ。
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