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微かな温もりの残る右手を、僕は左手でそっと包み込んだ。
「もう点滴終わったから。目が覚めて、気分が悪くなかったら帰ってもいいってお医者さん言ってたけど。帰れる?」
「うん。大丈夫」
「よかった。じゃあ、送ってくから。今日明日は、ゆっくり休んでね」
今日、明日……?
「あの、明日は仕事が」
「今の状態じゃ無理だよ。それにもう、過保護な恋人が手回ししてる」
「そんな……」
でも、と僕が反論の言葉を紡ぐ前に。嵐君が厳しい目をして言った。
「いのりさんが、俺の目の前で倒れたとき。俺がどんだけ肝を冷やしたか、分かる?」
確かに自分が逆の立場だったら、ものすごく怖い気持ちになっただろう。
嵐君にもしものことがあったら、だなんて。考えたくもない。
「……心配、したんだよ」
「うん」
ちゃんと休んで、回復しよう。ようやく、素直にそう思えた。
だって僕は、僕の大事なひとの、大事なひとなのだから。
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