165人が本棚に入れています
本棚に追加
…………
自宅マンションの前まで嵐君に送ってもらい、食料品の入った袋を手渡される。パック詰めのごはんやお粥などの陰で、桃の缶詰がささやかに自己主張していた。
「……ありがとう」
「ほんとに、ちゃんと休んでね? あと、ごはんも忘れず食べるんだよ?」
「うん。分かりました」
それと、と嵐君が去り際に付け足した。
「もし、具合が悪くなかったら。明日の夜零時十五分から、ラジオを聞いてほしいんだけど」
「ラジオ? 何の?」
「俺が前に、PVで出させてもらったバンドがやってる、ラジオ番組。そこにゲスト出演させてもらうことになってる」
「そうなんだ?」
「詳しい情報は、後でラインするから」
「分かった。待ってる」
嵐君の後ろ姿が見えなくなるまで、僕はマンションの入口に立ち、彼を見送った。雨粒は見当たらないのに、どこからともなく雨の匂いがした。
最初のコメントを投稿しよう!