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いつもと変わらない授業なのに、どうしてか気分はいつもより良く感じた。
周りの目を気にしなくていいなんて、そんな日がくるなんて思ってもみなかった。
「真野……。お前は、前の方の席になってもまだ寝ようとするか」
先生が寝ている真野さんの隣に立つ。
それをハラハラしながら見ている私と、無関心な刹那くん、そして笑顔の森崎くん。
真野さんは気持ちよさそうに眠っている。
こ、これは起こした方がいいんじゃ……。
「美姫、気にしなくていいから。それより、分からないところ無い?」
今聞かれても答えられないよ!!
どうするべきか分からずオロオロしていると森崎くんが笑った。
「先生。藍那の事気にしてても授業出来ないよ。藍那は放置してても大丈夫だろうから授業進めたら?」
そう言われて先生もため息をついた。
授業が再開されてホッと息をつく。
何事もなくて良かった……。
「それじゃあこの英文の和訳を君島、答えろ」
刹那くんが先生に指名されて面倒そうにため息をついた。
刹那くんはボーっと黒板を見つめるとゆっくり口を開いた。
「A dream is a wish your heart makes. When you're fast asleep in dreams you will lose your heartache. Whatever you wish for you keep.」
綺麗な発音で英文を読み上げる刹那くん。
クラスの女の子達は刹那くんから目を離せなくなっていた。
それから今度は和訳を口にした。
「夢はあなたの心が作る願い。ぐっすり眠っていると夢の中で心の痛みは消える。願うことはすべて叶う」
今の英語の授業では有名なお話である『シンデレラ』のお話を勉強している。
これは物語の中でシンデレラが言っていたセリフ。
私に対して言っているわけじゃないのに、なぜだか刹那くんに言われている気がして心の中が温かくなった。
願うことは……すべて叶う……。
私はシンデレラじゃない。
綺麗な心を持った綺麗な女の子じゃない。
シンデレラのようにはなれないけど、それでも信じれば叶うのかな。
「その通りだ。じゃあ次の英文を森崎」
森崎くんが当てられて笑顔で黒板を見る。
「No matter how your heart is grieving. If you keep on believing the dream that you wish will come true.
今はどんなに悲しくても、信じ続けていれば夢は叶う」
「その通り。これはシンデレラが友達のネズミたちに対して言っていた言葉で……」
先生の言葉を聞きながら呆然とする。
信じてれば、私も刹那くんの見ている景色を見られるかな。
刹那くんの手を煩わせる事も無く、自分の力で。
英語の授業が終わり、休み時間になった。
刹那くんの周りには相変わらずクラスの男の子や女の子達が集まってくる。
刹那くん、どうしてそんな面白くなさそうな顔してるんだろう。
皆と友達なんてとても羨ましいけど……。
「もう……うるっさい……」
そう言って不機嫌に起きる真野さん。
周りを見ると嫌そうな顔をした。
「毎日毎日騒いでないと生きていられないの?私は寝てるの、眠いの。昨日ネットゲームしてて寝不足なの、分かる?」
「それは完全に藍那の自業自得」
「和也は黙ってて」
真野さんの言葉に笑う周りの人。
こうやって楽しく休み時間過ごせたらいいな。
私に、コミュニケーション能力が備わっていれば……。
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