大好きな彼氏

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放課後。 お友達と話している刹那くんをチラッとだけ見て教室を出る。 本当は一緒に帰りたいけど、刹那くんは友達とも帰りたいだろう。 周りにあれだけ人がいて、私の知らないことを沢山知っている刹那くん。 私の憧れている事を全部経験している刹那くん。 本当……私とは正反対の人。 図書室に借りていた本を返しに来る。 この場所は静かでとても落ち着く。 一人で本を読んでいる人達ばかりだし、誰にも邪魔されない。 スクールカースト上位の人達はこの場所に近寄る事が無いから安心。 今回はどの本を借りようかな。 そう思いながら本棚を見て回ると、同じクラスの男の子が本棚の前に立って本を読んでいるのが見えた。 あ、市川(いちかわ)くんだ。 市川 勇吹(いぶき)くんは同じクラスの男の子。 私と同じでクラスではいつも一人でいる事が多い。 だけど私と違う所は誰からもいじめられていないって事。 黒い髪の毛はいつもぼさぼさで、眼鏡をかけていて、いつも俯いている。 確か、刹那くんの幼馴染だって聞いたことがある。 彼には一度話しかけてみたかった。 友達なんて一人もいないけど、彼となら友達になれそうな気がしたから。 私のなけなしの勇気を振り絞って市川くんに近づく。 それからゆっくり深呼吸をした。 「い、市川くん」 声をかけると市川くんは驚いたように私を見た。 「え……?」 「わ、私は、日比谷 美姫、です……。その……、同じ、クラスで……」 緊張してしまって上手く話せない。 これだから友達を作れないというのに。 自分から話しかけておいて泣きそうになる。 怖いと思うなら話しかけなきゃいいのに、私の馬鹿。 俯いて小さく震えると市川くんは口を開いた。 「知ってる、けど……」 「え……?」 「日比谷さんがクラスメイトなの、知ってるけど……」 そう言われて少し嬉しくなる。 私は顔を上げて市川くんの顔を見た。 「あ、ありがとう」 「どうしてお礼言うの?」 「嬉しくて……」 そう言うと市川くんは少しだけ笑った。 「僕も、嬉しい」 「え?」 「日比谷さんと、一度話してみたかったから」 そう言われて舞い上がらないわけがない。 私は笑顔を市川くんに向けた。 「わ、私もなの。友達になれたら、嬉しいなって。でも私、周りにいいように思われてないから、迷惑かなって……」 「僕も友達になれたらなって思ってた。でも、僕は勇気がないから日比谷さんのこと助けてあげられなくて……。そんな僕が友達になってもいいのかなって自信なくて……」 「助けてくれなくてもいいの!友達ってだけで、嬉しい」 そう言うと私達は笑い合った。 ・
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