第1章

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――― 私は元口裂け女。でも今は、普通の専業主婦だ。ごく普通に夫と暮らしている。子供もいる ――― 若い頃は苦労したものだ。口が元々大きく、下の歯までくっきり出る笑い方。・・・そして、思春期の口唇ヘルペス。口紅でごまかそうとしたら、余計にグロテスクになってしまった。思い出しても、仕方がない。 ――― だから、口裂け女など、本当はいないのだ。そんなことを洗濯物をたたみながら思う。 ――― もしも現代版口裂け女がいるとすると、きっと私と同じ。だから、少し可哀想だ。大きな口や笑い方、口唇ヘルペス。 ――― 違うところは可愛いピンク色のキャラクター柄のマスクをつけている。そして、ミニスカートだ。茶髪かもしれない。私の頃とは時代が違うのだ。 実際に口裂け女などいないのに、空想を膨らませると、笑ってしまう。 「さて、買い物に行こうかな」 夕方。住宅街のはずれにあるスーパーに買い物に出かける。 歩きながら、マスクをする。 ――― 今でも、マスクをする癖は残っている。試しに、歩いている近所の子供に聞いてみた。 「私ってきれい?」 「おばさんきれいだよ」 その子供は無邪気に笑いながら答えた。 ――― よくできた子だ。 そう思いながら、歩く。
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