0人が本棚に入れています
本棚に追加
――― 私は元口裂け女。でも今は、普通の専業主婦だ。ごく普通に夫と暮らしている。子供もいる
――― 若い頃は苦労したものだ。口が元々大きく、下の歯までくっきり出る笑い方。・・・そして、思春期の口唇ヘルペス。口紅でごまかそうとしたら、余計にグロテスクになってしまった。思い出しても、仕方がない。
――― だから、口裂け女など、本当はいないのだ。そんなことを洗濯物をたたみながら思う。
――― もしも現代版口裂け女がいるとすると、きっと私と同じ。だから、少し可哀想だ。大きな口や笑い方、口唇ヘルペス。
――― 違うところは可愛いピンク色のキャラクター柄のマスクをつけている。そして、ミニスカートだ。茶髪かもしれない。私の頃とは時代が違うのだ。
実際に口裂け女などいないのに、空想を膨らませると、笑ってしまう。
「さて、買い物に行こうかな」
夕方。住宅街のはずれにあるスーパーに買い物に出かける。
歩きながら、マスクをする。
――― 今でも、マスクをする癖は残っている。試しに、歩いている近所の子供に聞いてみた。
「私ってきれい?」
「おばさんきれいだよ」
その子供は無邪気に笑いながら答えた。
――― よくできた子だ。
そう思いながら、歩く。
最初のコメントを投稿しよう!