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「彩乃。お父さんとお母さんは、お互いが嫌いだから別れたわけじゃないんだよ」
そのお父さんの言葉に耳をうたがった。
嫌いだから別れたわけじゃない?
それならどうして別れたの?
お母さんを苦しめたの?
私の思いが伝わったのかお父さんはその続きをゆっくり口にした。
「別れるしか方法がなかった。お父さんが決めた事なんだ」
「どういうこと……?」
「……彩乃は今、義姉さんの所にいるんだよね?」
叔母さんの事が出てきた瞬間青ざめる私。
それから俯いて小さく頷いた。
「彩乃ももう知ってると思うけど、義姉さんはお母さんの事が大好きなんだ。きっと誰よりもお母さんには幸せになって欲しいと願っていたはず。でもそんな義姉さんからお父さんがお母さんを奪ってしまったんだ。
お母さんは大企業の娘で、お父さんは雇われの社員だった。そんな雇われ社員がお母さんと出会えたのは、お母さんがたまたま社長の忘れ物を届けに来たからなんだ。挨拶回りから帰ってきたばかりの俺に話しかけてきたのはお母さん。お父さんはお母さんを一瞬で好きになったよ。
お母さんと仲良くなれたのはお母さんがお父さんと仲良くなりたいと言ってくれたからで、それからお母さんから告白してくれた。でもお父さんは1度断ったんだ。だってあまりにも不釣り合いだから。でもお母さんは関係ないと言ってくれた。だから頑張ってお母さんとの関係を認めてもらおうと義姉さんに会った。だけど、初めて会った瞬間からお父さんは義姉さんからゴミでも見ているような目を向けられた」
その目は容易に想像出来た。
いつも私に向けてくる目と同じだろうから。
「それからお母さんに言ったんだ。『やっぱり一緒にはいられない』って。でもお母さんはお父さんから離れなかった。それから、駆け落ち同然で結婚した。誰にも祝福されるでもなく」
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