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教室に戻ると知らない男の人が拓と話していた。
誰だ?
俺に気づいた拓が笑顔で俺に手招きする。
「何?」
「秦!この人、横山のお父さん!!」
「え?」
男の人を見るとその人は柔らかく笑った。
「浅田秦くん、だね?よく文乃と彩乃から聞いてたよ」
「あ、あの……」
「彩乃は今、私と一緒に暮らしてる。でも、この学校で辛い事があったのか学校を辞める事にしたんだ」
その言葉に桐原が倒れそうになる。
そんな桐原を支える前川。
「だけど彩乃は君達を嫌っているわけじゃない。君達が好きだから離れないといけないと思ったんじゃないかな。……私には少し分かるから」
そう言って寂しそうに笑う男の人。
「でも私は彩乃に学校を辞めてもらいたくない。こんなにも素敵な友達がいるのに、辞めるなんて勿体ない。そこでお願いがあるんだ。秦くん。彩乃が君に会いたがってる。どうか説得してくれないかな」
彩乃が……俺に……?
固まる俺の背中を押す拓。
なんで、そんな笑顔なんだよ。
お前だって彩乃の事……。
俺の戸惑いが分かったのか、拓がため息をついた。
「俺の事はもういいの!散々引っ掻き回してこんな事言うのもなんだけど……。最初から知ってたし。横山が秦ばっか見てること」
「拓……」
「横山、秦に会いたがってたよ。さっきおじさんの携帯借りて電話したんだ。早く行ってあげなよ」
拓に笑顔で手を振られる。
俺は拓に笑い返して頷いた。
そして男の人と一緒に歩き出した。
「これでようやく、私の事見てくれる?柴咲」
「え?」
前川と拓のそんな会話を聞きながら、俺はただ真っ直ぐ廊下を歩いた。
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