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「私が折った鶴です」
花屋の店先にて、植物に水をあげていると、突然、後ろから声を掛けられた。
振り向くと、「近っ!」と思わずツッコミを入れたくなるような距離感に、少し慄く。
そこには50代位のオジさんが立っていた。
中肉中背、キャップを被り、薄汚れたレンズのメガネを掛け、不精髭を生やしている。
両手を胸の辺りに掲げ、手の平を私に向ける。手の上に、両手にはみ出す程の大きい銀色の折り鶴がのっていた。
「私が折った鶴です」
再びオジさんは繰り返す。
だから何なんだ?と思ったが、口には出せず、「……はぁ……」と小さく頷いた。
「あなたに幸せが訪れますように」
「なーむー」と言わんばかり、オジさんは深くお辞儀をした。
私も思わずお辞儀を返すと、満足したのか、今度は通りを歩いていた親子に声を掛けた。
小さな子供の前に立ちはだかり、「私が折った鶴です」と同じセリフを口にする。母親が怪訝な顔をし、オジさんを無視したまま、子供の手を引いて、足早に去って行った。
当然の反応だ。
オジさんの名前はポールという。
外国人の訳ではない。
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