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走ってきている。まるで、何かに吸い寄せられるようにまっすぐ山都の方向へ。
ドンッとぶつかりそうになり、やっと少女は、山都の存在に気がついたようだった。尻餅をつきながら浮かべた表情は、恐怖よりも、安堵に近いけれど、頬は引きつり、目元は真っ赤だ。泣きはらしたようなぎこちない笑みを浮かべて、少女は立ち上がろうとするが、ドテッとその場に座り込む。ガクガクと膝が揺れ、履いているスニーカーは真っ赤に染まり、後ろにまとめたポニーテールの尻尾がゆらゆらと揺れる。
「おい、大丈夫かよ」
山都は、見かねて手を貸そうとするが、少女はキッと睨みつけ、山都の手を振り払う。
「近づくなっ、私に近づくなっ!!」
少女が叫ぶと同時だった。真っ黒な夜空に一人の大男が現れる。深紅の髪に青白い肌、口から生えた大きな牙、そして鍛え抜かれた筋肉隆々の肉体を持つ男が、ドンッと公園に着地する。
「か、覚悟」
少女が、呼び、覚悟と言われた大男は、ニィと口元を歪めダラダラとよだれを垂らす。一歩、踏み込めば届きそうな距離をゆっくりと進む。
少女は、恐怖から逃げるように地面をナメクジみたく張って逃げる。山都を無視して行われて、そこに気合い一つ、割り込む。
「おい、ロリコン野郎。小学生のケツを狙うってのはお前、あれか? 脳みそ、腐ってんのか?」
「あ?」
覚悟は、初めて山都の存在に気がついたようだった。しばしそちらを見たあと興味を失ったのか、通り過ぎようとした。
が、その直後、覚悟の視界が一つの拳によって潰される。メリッと両目に叩き込まれた山都の拳が覚悟の眉間を貫く。
鍛えていてもわりと小柄な山都と、筋肉をたんまりな覚悟では力の差は歴然だったはずだ。潰れるのは山都の拳、そのはずだった。
覚悟が、公園の地面を吹っ飛んでいく。
そこにはさっきまでの小汚いジャージの金髪少年はいなかった。赤色の衣を身にまとい、金髪の隙間から耳をはやし、バキッ、バキッと両手の関節を鳴らす。
「聞いてんのかよ。このクソロリコン野郎。そりゃ誰かを好きになるのは自由だ。じーさんが女の子を好きでも、三十路のおばちゃんが若い男子が好きでも、幼なじみの女の子が、男子を好きになっても構わねえよ」
でもな、
「怯えた顔をさせるほど、追いかけまわすのは好きになることじゃねぇ!!」
山都は叫ぶ。理不尽があった、不条理があった。女の子が泣いていた。
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