業を背負う者

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事情なんてはっきり言って知らない。そこに至るエピソードがあったわけじゃない。ただ、偶然、公園でぶつかっただけ、それだけだけれど、山都大聖は、物語の主人公はそれだけで拳を握ることができる。悪に立ち向かう、勇気を持つ。 ロリコン野郎こと、覚悟が立ち上がった。さっきまで羽虫程度しか思っていない相手からの痛烈な一撃が、彼の怒りを爆発させる。自分に勝てる者などいなかった。どんな相手でも一睨みすれば怯えた小動物のように、覚悟の餌になる。だから、許せなかった。今、一番、食いたい女を食えず、邪魔された。 山都大聖と山崎覚悟、それぞれの業を背負う強者が、今、ここにぶつかり合う。開始のゴングはなかった。あったのは、両者の拳がぶつかり合う、生々しい音だけだ。 メシリと山都の拳が、覚悟の頬を抉り、ズシャと下から打ち抜かれた拳が山都の腹部を貫く。接触は一瞬、互いの力がぶつかり合い、距離をおく。 会話はなく、間髪入れずに山都は地面を蹴った。相手は規格外な大男、パワー勝負では山都は不利だった。手数の多さで勝負を決める。 ドッ、ドドドドトドと痛烈なパンチの連打を覚悟に叩き込む。獅子の力、山都大聖の体内には全てを蹂躙する百獣の王の力が宿っている。その力を爆発させ、パンチを叩き込む。 「なにっ!?」 だが、覚悟はその拳を受け止めると、思いっきり地面に叩きつけた。見切られた。そう感じた時には山都は地面に仰向けに転がり、眼前に覚悟の拳が迫る。とっさに身体を真下に下げて拳を避けつつ、立ち上がり覚悟の頭上をとった。 迷うことのない一撃、それを叩き込むはずだったけれど、覚悟はくるりと身体を反転させ、拳を振り下ろそうとする山都を横から蹴り飛ばす、バランスを崩された山都はゴロゴロと地面を転がった。 体勢が崩れたところを、覚悟は見逃さない、追い打ちをかけるために地面を蹴り上げ山都に迫るが、それは彼もわかっていた。突撃してくる覚悟を迎撃するために体勢を立て直す。 不利なのはパワーだけじゃなかった。言わば経験。山都大聖にはなくて、山崎覚悟にはあるもの、それは修羅場をくぐってきた幾多のもの経験だ。覚悟は、五百年前の人間である。いくら化け物になっても身体が、その魂が当時のことを覚えている。喧嘩慣れした山都とは、経験も、年期も大きく違う。 山崎覚悟は、武家の次男坊として生まれた。武家の息子として生まれたからには弱いことは
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