業を背負う者

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許されない。弱肉強食、下克上など当たり前、弱い奴を食らい蹴落とし、のし上がる時代に生まれた、覚悟は鍛錬を積むことが存在意義だ。それ以外に何もない。 『いいか、覚悟、お前も兄のような立派な男になるのだぞ』 父が言う。 『いい? 覚悟、貴方は兄のような立派な武芸者になるのよ』 母が言う。兄のようになれ、兄のようになれ、兄になれ。まるで、自分は兄の代用品のようだった。跡継ぎとして生まれた兄は、幼少の頃からその才覚を遺憾なく発揮して武勲をあげていた。立派な兄で、弟の覚悟と稽古してくれる優しい兄でもあった。 『覚悟も私のようにいつか、立派な武芸者になれる。お前には才能がある』 親が、親戚が、同僚が、兄が言う。 『お前には才能がある。兄のような立派な武芸者になれ』 何度も、何度も、まるで自分は兄の部品のようだった。兄がいなくなったときに変わりに使われる代用品、それ以外に価値はなく、意味もない。そんな人生はまっぴらごめんだ。俺は山崎覚悟だ。兄じゃない。そう思ううちに、武家も、武芸も、鍛錬も全てが馬鹿らしくなった。 兄のため、兄のため、兄のため、何をしても兄のためくだらない人生に嫌気がさして、酒を飲み、女を抱いて、面倒を起こしては親に迷惑をかけた。子供じみた仕返しだ。こうしていけば、いつか勘当され、兄の代用品としての役目も終わるだろう。 『いいや、貴様は負けるのが怖いだけだ。兄という大きな壁を目の前にして、逃げ出しているだけの臆病者だ』 と言ったのは、女だった。覚悟は怒る。女のくせに偉そうなことを、けれど、覚悟は、女には勝てなかった。長年、ろくに鍛錬もせずに遊び呆けていたこともあるが、それを除いても女は強かった。 『強くなれ、そして兄を越えろ。お前はクズで、負け犬で、情けないゴミだ。逃げ回ることしかできないだダメやろうだ』 打ちのめし、叩き伏せ、覚悟をズタズタにへし折って女、躑躅は言う。 『名に恥じるな、覚悟を決めろ。お前は一生、負け犬か? 吠えるだけなら誰でもできる。負け犬なら負け犬らしく、牙と爪を見せてみろ』 初めて負けた、そのときから覚悟は、この女に負けたくないと思った。男としての面目を潰され、負け犬のように地を転がった自分には何も残されていない。 『やってやる。俺は、兄にも、誰にも負けない男になってやる!!』 心の奥底に灯る炎は、いつか躑躅への恋心に変わった。
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