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強くなるたびに、一つ技を覚えることに自分のことのように、誉めて、覚悟と自分の名を呼んでくれる、彼女に淡い恋心を抱いたけれど、もう、彼女はどこにもいない。
長い、長い間、掛け軸の中にいた。声は枯れ、涙は出ない。どうして、どうして、俺をここに閉じ込めた? 出してくれ、俺はここにいるんだと叫び続けて、そして見つけた。
「邪魔をするなっ!!」
食う、食らう、空腹を満たすために、もう二度と別れないように躑躅を食う。なのに邪魔をする者がいる。
「邪魔ならするさ、俺はあんたを止めなくちゃいけないんだ!!」
強い瞳だった。闘志に燃え、目標にために前進する強い瞳を持つ少年だ。覚悟にも覚えがある。ただ、純粋に兄の背中を追いかけ、躑躅に認められようと奮闘していた自分と同じだ。挫折を知らないまっすぐな瞳だった。だから、気に入らない。踏みつぶしたくなる。
振り上げた拳を、山都はかわす、一撃、一撃がドンドン重くなっている。まるで長年、眠っていた身体がやっと温まってきたように重くなっていく。
「なんなんだ、これは」
真朱は戸惑っていた。山都と覚悟の死闘を見ながら呟いた。通りすがりの少年が、不可思議な力を発現させ、覚悟と戦っていること───ではなく。
どうして、あの少年は見ず知らずの自分を助けることに戸惑っていた。ほとんど初対面なのに、名前だって知らないのに、どうして迷うことなくあの怪物に立ち向かうことができる? わからない。
「本当にそうか?」
と真朱の疑問を読み取ったように、白髪の少女は言う。いつの間にか背後に立たれ、ニヤニヤと口元を歪めながら、少女こと、伊織は言う。
「貴様は、わかっているはずだ。こうして逃げ回っていれば、いつか必ず助けてくれると、数多くの犠牲者を出しながら、逃げ回っていたのは、あの怪物を倒してくれる誰かを見つけるためだ」
まるで、真朱の心のうちを見透かすように伊織は言う。
「楽になるのは簡単だ。あの怪物の腹の中に収まればいい。食い尽くされるだろうがどうせ死ぬんだ。痛みなんてほとんどない。なのに、お前は逃げ出した。恐怖の鬼ごっこを選んだ。なぜだ?」
なぜ? 知らない、そんなこと、
「知らない。そんなこと知らない」
「知らない? ハハッ、愉快だなぁ。貴様は死にたくないから逃げたんだよ」
「そんなの当たり前、死にたくなんか」
「見ず知らずの女を身代わりしてもか?」
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