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山都の焦りとは裏腹に、覚悟はさらに強くなっていく。鈍った身体を動かし、凝り固まった身体が積み重ねた鍛錬を思い出すように強くなっていく。
(長期戦じゃ、勝ち目は薄い、なら、一撃だ。相手を一撃で再起不能にするほどの一撃をあいつに叩き込むしかないっ)
もちろん、そんな暇も余裕も与えてはくれない。山都は荒い呼吸を沈め、両手を握りしめる、ある程度の攻撃は受けるが、ジリ貧になるよりかはマシだと、思った矢先のことだった。
「覚悟っ!!」
と少女の声が響きわたった。掛け軸を持った少女が山都と覚悟の間に割り込んでくる。
「なっ!? バカっ!!」
掛け軸をパッと開き、覚悟の前に立ちふさがる少女こと、真朱はガタガタと揺れる足を押さえながら、
「覚悟、掛け軸に戻るんだ」
こうすれば戻る。出てきたときも、覚悟、出てこいと言えば出てきた。つまり、その逆を行えばいい───はずだった。
広げた掛け軸が、覚悟の拳によって破かれる。え? 驚く暇はない、覚悟がそこに迫っていた。
「馬鹿やろうがっ!!」
山都は、真朱を抱えて彼の攻撃を間一髪で避ける。
「どうして、掛け軸に戻るはずなのに、私が責任をとらないといけないのに」
「どういう理屈か知らねーけどな、そのやり方じゃダメみたいだ」
グルリとこちらに睨みつけた覚悟が、かぁと口を開けた。まるで好物を奪い取られた課のように怒りを爆発させた。
「じゃあ、私はどうすればいいの? 私のせいで、私が掛け軸から覚悟を復活させたせいで、いろんな人が死んだんだよ」
もう、死ぬしかないと真朱の言葉に山都はドンッと拳を叩き込む。
「いいか、クソガキ、俺はお前がどういう理由であいつに追われてるか知らねーけどな、死ぬしかないとか軽く言うな!!」
「でも、だって、私のせいで、死んだんだよ。私さえ居なければ誰も死ななかったんだ」
「だから、死ぬのか? そうやって楽になるのか? 死ぬのが償いだとか思ってんのか? ふざけんなっ!!」
山都は、真朱を抱えて叫ぶ。
「死ぬことは償いじゃねぇんだよ!! 無様でも、情けなくても、みっともなくても地べた這いずって生きろ。死んだ奴らの分までその命を背負え!!」
「背負う?」
「そうだ。背負え、それがお前の責任だ。死ぬことは許されない。謝って、謝って、謝って、謝りながら生きろ」
「でも、私は」
「ええい、やかましい。今はそれどころじゃないんだよ!!」
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