第1章

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「綺麗だねぇ」  花に向かって言ったのか、寝ている相棒に言ったのか、それは誰にも分からないが自分が盗んだ宝石など以外、こうして平凡に、毎年その時期がやってくれば咲く花に対して、『綺麗』なんて感想を持つ事は無いに等しかった。  どうしてこう思うのか、そんな事など分からないが、微笑みながら「次元ちゃん知ってる? 桜の木が美しいのは、木の下に死体が埋まってるからだぜ」と、後ろを振り向きながら言ってみた。  起きる事はないのに、そんな事を言うのはきっと寂しいからではないと否定をしつつ、自嘲した。  ――その瞬間。「あぁ」とボルサリーノの下から低い声が響いた。   「まさかと思うけど、次元ちゃん起きてたの?」  そう尋ねると、鼻で笑うのが聞こえ、肩を竦めて呆れた表情を晒し「さすが元殺し屋だ」と嫌味を込めて、縁に腰掛ける。 「おめぇの気付きがおせぇんだ」  俺の背中で寝てただろうが。小さく口にすれば聞こえていたらしく、口角を上げるのが見えて同時に上半身を起こした。   「店主さん困ってたぜ? 歩けないぐらい酔うなら止めとけって言ってるだろ」  赤いジャケットに腕を伸ばし、しかし助手席付近から後部座席までは届かないので、相棒の次元大介に取れと無言で伝え、次元は合図に気付き、ジャケットを手に取り、腕を伸ばして差し出す。  サンキュ。礼を述べながらジャケットを身に纏い、そのまま軽くジャンプをし、運転席に腰掛ける。  エンジンを掛け、愛車を発進させる。 「お前にやるよ。暫くアジトに飾っておけ」  右手に持った桜の木の枝を次元に渡し、右手で愛車を運転する。  アジトまでそう遠くない距離。甘い花の香りに包まれながら鼻歌を歌っていると、次元に何の曲かと尋ねられた。  そんな事があった、4月の15日。
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