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アジトに向かう途中、そろそろ満開の桜の花びらが舞う頃合いになってきたのを肌で感じる。
花を感じさせる匂い、眠気を誘う温度に、心地よい風がジャケットの裾を抜けていくのを感じて、思わず鼻歌を歌いながらSSKを右手で運転する。
そろそろジャケットを着ていると暑くなってきたと思いながら、海沿いの道路をゆっくり走っている。
普段はこれ位ゆっくり走らないだろう。速度にして60kg。
「海が綺麗だねぇ、次元ちゃん」
右手をドアの上に置いて後ろに振り返りながら、相棒に声を掛ける。
黒い服を纏った相棒は、今朝の5時までバーで飲んでいた所為か、帽子を頭の上に置いて規則正しく上半身が動いている。
無論、その声に返答する訳でもなく、いびきを掻きながら靴を脱いで、後部座席を陣取っている。
「そんなに飲むからでしょ……」
はぁ、と溜息を零しながら左手でジャケットのポケットを探り、煙草とつい最近購入したジッポを取り出す。
煙草を取り出して、火を点けてカチン、とジッポを閉じれば煙草の箱と一緒にポケットに仕舞う。
体内にジタンの香りを回し、息を吐き出して、煙草の煙を吐き出して運転していると、ふと、ガードレールの外から生えているのを見つけた。
そう言えば蕾があったなと思いながらスピードを緩めていく。
ビュウ、と風が吹けば淡いピンク色の花びらが空を舞う。
そろそろ雨が多い時期になるだろうな、なんて起きもしない相棒に心中で呟きながらも愛車を止める。
ダンッ、ドアを閉め、ジャケットを脱いで暑くなって目を覚ませと思いながら脱いだジャケットを相棒にかけて愛車に手をかけて桜を見つめる。
短くなってきた煙草を口から吐き出し、靴の底で潰して火を消し、腕を枝に腕を伸ばす。
パキン、人差し指と親指で枝を折り、色々な角度からその花を見物する。
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