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「では、私は」
「ウム。まさしく骨折り損のくたびれもうけじゃな。ご苦労であった。お主の精勤には主たるこの私が報いる。褒めてつかわす! ようやった」
無言のまま、どっと床に膝をついた有坂は、頭を厭だ厭だと激しく左右に振る。
涼が楽しげなのは、彼が悔しそうだからだ。
彼女は彼が苦労しているのを見ると日頃のウサが晴れるらしい。まったくもって仕えがいのない事といったら。
「私がその手の事は判らないと思って、いい加減な事を申されておいでなのではないですよね」
彼がじっとりと睨むと、不愉快そうに涼が視線でけんつくを食わせてくる。
「そんなつまらぬ嘘はつかぬ。ついてもすぐにバれるじゃろうが。あの魔は新しい肉を早々に食わねば身が持たなんだ。それで、いささか狩りを焦ったのやもしれん。何か……己より遥かに強いものに、食いついたかの」
陰火より、はるかに強いもの。
……何故だか、背中をゾッと寒い物が走り抜ける。
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