そして二人は春を疎む

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「いやーごめんごめん、なかなか我がヘブンから抜け出せなくて……」 「わたしが神様なら楽園追放確定だな」 「蛇が二度寝を囁くんだよー」 「決めた。エデンは閉店ガラガラ。今決めた」 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ!」 「すまない、ヘブライ語はサッパリなんだ」 本当のところはヘブライ語かどうかも知らないけど。 「直訳すると?」 「なにてめー俺を見捨てやがってんだよファッキンゴッド」 「敬謙な信者さんたちに焼かれてしまえ」 「魔女狩り? いや、イノケンティウス?」 「タバコくわえた神父さんじゅうよんさい」 「麻婆の神父もいるよー」 「愉悦しまくってるけどな。あと素数の人」 「落ち着いて素因数分解ってね、ハハ」 相変わらずのくだらない話を、くだらなさそうに言葉を交わすこの時間を、いつの間にかわたしはくだらないとは思わなくなっている。 「……ああ、そうだ」 「んー?」 こちらを振り返って、またコイツはヘラッと笑ってみせた。 「これからも、よろしく」 「……え、どしたの急に。頭打った?」 「死苦夜露」 「うわ怖い。はいはいしくよろ」 せっかくカッコつけたのが台なしになったので文句の一つでも言ってやろうと思ったが、やめた。 そういうテキトーな相槌の方が、照れ臭くないだろうから。 .
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