そして二人は春を疎む

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年々歳々花相似たり云々、とは言っても、植物には植物なりの事情があるのか、桜前線はついさっき私たちの住む街を通り過ぎて行った。去年の今頃には満開だった桜の木は、今年は半分以上が散って、もうすっかり葉桜だ。 わたしと楸の入った高校もそれは例外ではないらしく、申し訳程度の花びらが風に吹かれて土へ還る。 「アレ? 柊奈ってそんなに風情豊かな感性の持ち主だったっけー。いとおかしとか言っちゃう?」 退屈な入学式や厄介事の自己紹介も無事乗り越えて、ただ今わたしは新一年生の教室で、番号順に並んだ席の一つに座っている。連絡事項のプリントなんかも大体配り終わって、もう後は帰るだけだ。ツイてるのかそうでないのか、楸とは同じクラスだった。 「いやなんかさ、葉桜ってなんかこう、すごく中途半端じゃん」 「あー、わかるよ」 したり顔で大仰に頷く楸。それを横目に、教室から窓の外を眺める。 「どっちかにしろって言いたくなる感じがさー」 「でも、どっちつかずを楽しむのも粋ってヤツなんじゃないかなぁー、とわたしはアウフヘーベンしてみる」 楸がわざとらしい真顔をしてみせる。とりあえずわけわかんない単語はスルー。これがコイツとの会話の定石。どうせ哲学かなにかだろう。 「いや正確には違うけど、多分違うと思う、うん」 へらりと笑って自らそう締めくくる。わからないなら使うなよ、とつい思ってしまう。 「にしても、またおんなじクラスだねぇ」 「そうだな」 「楽しみかい?」 楸が悪戯っぽい笑顔で尋ねる。なにを企んでいるのか知らないが、その問いについて少し考えてから、口を開く。 「……別に」 「ありゃ」 「一々都合のいい期待なんかしないっての」
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