そして二人は春を疎む

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「満足しない豚であれって言うじゃないか」 この解答について、少なくとも楸は気に入らなかったらしい。 「満足している訳じゃない。ただ……」 「ただ、なんだい?」 相変わらずヘラヘラ笑ってはいるが、その瞳は細められたままにまっすぐわたしを捕らえて離さない。こういうところで、コイツは食えないなと思う。 「期待する気にも、なれないってだけ。期待なんていうのは、自分の力の及ばない領域への、祈りみたいなものじゃん。わたしはわたしの未来に関して祈るほど謙虚な人柄じゃないし、祈祷でそれを左右できると信じ込むほどオメデタじゃないから。だから期待なんか、してやるものかって、そう思う」 「…………」 黙ってこちらを見つめる楸の目を見返しながら、言葉を紡ぎ終える。気がつけば、教室にはもうあまり人は残っていなかった。彼女がなにか言い出すより先に、もう一度言葉を開く。 「……帰るか」 「え、あ、うん」 いまさら思い出したような返事をして、楸もカバンを手に取る。今日は疲れた。新生活というのはつまり不慣れであるということなのだから、しばらくは疲労の溜まりやすい日々を送らなくてはならない訳か。五月病なんて冗談じゃない。 そんなことを考えていると、帰り支度をした楸が小走りでついてきた。わたしの顔を覗き込んで、ニヤリと笑う。 「さっきの話だけど、まあ安心していいよ。柊奈の高校生活は、わたしが自信を持ってプロデュースさせていただきますので」 なんだそりゃ。ちょっと呆気にとられたわたしを置いて、そのまま階段を降りていく。その挙動は心なしかスキップ交じりのような感じもする。 「……まー、いいか。って待てよおい」 とりあえずカバンを肩にかけて、面倒な階段は一段飛ばし。バランスをとってわたしは楸の背中を追いながら、心の中で毒づいた。 期待させやがって、覚えてろよ、と。 そう思考しつつ、革靴に履き替えて学校を出る。入学式ということもあって、敷地内はまだ新入生とその保護者とでごった返していた。わたしも楸もその渦中に放り込まれたので、校門から少しばかり離れた頃にはすっかり活気にあてられていた。
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