そして二人は春を疎む

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「ハァ、やっと終わったー」 帰り道、わたしの隣を歩く楸はすっかり疲れて、嘆息ばかり吐き出してきた。あ、ため息って幸運が逃げるんじゃなかったっけ。 「吐き出す空気の中に幸運の素でも入ってるのかな。あーラック値が下がったー。いや、柊奈の分まで下げちゃえー」 「おいこら。わたしだってお前から奪うぞ」 「不幸だー。まずはそげぶじゃー」 「はい反射」 楸がうへぇ、と顔をしかめる。 「うわぁえげつない。というか、この世の人類すべての幸運パラメータをゼロにしたら、面白そうじゃない?」 その発想がすでにハイパーえげつないだろ。最上級のえげてすとだ。考えるだけ時間の無駄だが、まあ今朝の話を思えばなんであろうと結果的に時間は消費され続けるらしいから、まあ考えるくらいはいいか。 「んー、そもそも幸運の効果範囲っていうか、適用範囲がわかりにくいよな。財布を落とすレベルから生死に関わるレベルまで幅広いし」 とりあえず前提の不備を指摘してみると、楸はやはり苦笑した。 「生死レベルだったら、まず出産の時点でヤバいよね。ほら、人間って脳が大きすぎて、本来の出産の時期を前倒しにして未成熟のまま産ませることで新生児と母体の生存率を上げてるから。生まれ落ちてすぐに立ち上がるサバンナの野生動物なんかと違って、すごく弱いんだよね。」 「子孫が産まれなくなるか。じゃあ、けっこう人類絶滅に直結しそうだなぁ」 「そりゃもう、ダイレクトアターックでしょ」 決闘者はお帰り願いたい。あのシリーズはルール含めサッパリわからない。 「もういっそ、そっちの方が有益なんじゃない?」 「過激エコロジストと同じことを言うね、柊奈は。人間そのものこそが地球の敵って訳か」 たしかに、なんか映画の黒幕とかでいそうだ。いや、そんな映画見た気がする。わたしたちは地球を救うために戦っているのです。殺しているのです。 そこでふと、まったく別の疑問が湧いた。 「……っていうか、実のところ、核兵器とかそーゆーので地球って壊せるのか?」
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