そして二人は春を疎む

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「……さすがにその話題を続けるのは」 「うん、気が滅入るね。そこで、だよ?」 改札前まで歩いたところで、楸が朗らかな笑みとともに目の前のコンビニを指さす。 「高校生デビューと一緒に、わたしにアイスを奢るデビューしてみない?」 アイスクリーム。和名は氷菓。クリームなどの乳製品に様々なフレーバーを添加し、糖類や香料を加えながら凍らせた氷菓子。ホモサピエンスの偉大な発明の一つであり、生命活動に欠かせない必須アミノ酸のような物質。だから、 「みない」 ちぇー、とかなんとか言ってる楸と一緒にそれぞれ好きなアイスを選んで買う。手に持った冷気が疲れを削ぎ落とすようだ。改札を通過して、ホームのベンチに座って電車を待ちながら包装を外し、いただきます。 「生き返る気持ちって、きっとこういうのを言うんだろうな」 「なんと! 柊奈はゾンビだったのか!?」 おどけてみせる楸に、わたしは無言のまま噛み付く真似をする。ひゃあ、と楸がのけ反って、わたしも危うく口の中のクリームがこぼれそうになって固まってしまう。 結果として、わたしが楸に向かって顔を突き出したまま固まるという、なんともマヌケな構図ができてしまった。楸の珍しく少し焦った顔が、ほんの鼻先にある。 「……や、どうしたんだい柊奈」 必死に冷静を装っているわりに、頬は少し赤い。なんだろう、いつも顔を合わせてはいるが、これは中々見せてくれない表情で、それをジロジロ見ていると少し得をした気分になった。あ、だけどそれは向こうからも同じだ。そう結論付けるとさっさと目を離して上体を元に戻す。 ああ、きっとさっきのわたしはこのうえなく呆けた顔をしていたんだろうな。しかもそれを見たのがコイツだというのは、中々ダメージが大きい。
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