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“凄腕のネゴシエータが来たらしい”
という噂を聞きつけた若者たちが、村の小さな酒場に集まってきた。
「アンタが天才ネゴシエータのエリックかい?」
集まってきた若者の中で、いかにも腕っ節の強そうな太った少年が声を掛けた。
カウンターに座り、まだ覚えて程ない酒をぐいっとあおると、エリックは悠然と少年を見やった。
「…ああ。そうだ」
低い声で答えると。
「村の大人たちが話してたけどよ、すんげえ沢山の国や人と、竜とを契らせたって、ほんとか?」
「……まあな」
すると少年はエリックの足元にがばっと身を伏せ、
「なあ頼む!おいらをあんたの弟子にしてくれよ!」
と縋った。
「俺、一流の竜使いになって稼ぎてえんだ!頼むよ!」
太った少年の後ろに群がっていた別の少年たちも、次々にエリックの前へ進み出てわめいた。
「俺だってネゴシエータになりたい!」
「僕も!僕も弟子にして!」
みんな自分と同年代か少し下ぐらいの、若い男だ。
中には興奮したように高笑いしながら、おもしろ半分に顔を突っ込んでいる奴もいた。
エリックは不服そうに鼻を鳴らす。
ここにいる少年たちのほとんどが、単にネゴシエータになって金儲けがしたい、女にもてたいとかいう、短絡的で不純な動機なのが見て取れた。
お前たち。
竜を扱う仕事をなめるなよ?
そうがなろうと思った瞬間。
「…なあアンタ!俺を弟子にしてくれよ!」
群がった少年たちの後ろでひときわ凛と通る声で叫んだ者がいた。
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