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不平をこぼしながら、散り散りに酒場を後にする少年たち。
エリックに「選ばれた」少年だけは、相変わらずまだ彼の目前にぼんやりと立っていた。
「どうした?嫌なのか?」
エリックが眉根を寄せ訊ねた。
「いっ嫌だなんてまさか!!」
叫んだ声が歓喜のせいか、上ずって震えていた。
「ほんとに?ホントに弟子にしてくれるの?」
「言っただろ。テストするって。それで上手くできたらの話だ」
「うん、分かった!俺きっと上手くやるよ!じゃ、あとで!」
キャスケットの下の翠色の瞳がキラリとした。
それから少年は弾かれたように店を飛び出して行った。
エリックは静かになった酒場のカウンターで、大きな溜息をこぼすと含み笑った。
「よう、流れ者のネゴシエータのにいさんよ」
一部始終を見守っていた店主が、カウンターに両肘をつき、ニヤつきながら声を掛けてきた。
「…アンタ、気づいたんだろ?あの子が ”女の子”だって事にさ」
「ああ。…。あの娘は村に住んでるのかい?」
「そうだよ。ダスティンってジィさんの孫娘さ。なんだって男のなりなんてしてたのかは分からねえけどなあ。村外れの小っちゃな掘立小屋で、二人暮らしだ」
「ふーん」
「で、何でまた、あの娘を選んだんで?」
「…」
エリックはグラスの中の琥珀色の酒を暫しぼんやりと眺めてから。
「…さあねぇ」
そう浮かない返事を返しながらも、エリックの瞳はある種の期待感を孕んでいた。
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