第二章 動き始めた運命

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酒場を後にしたエリックは、肩からホルスターを提げ、薄暗い野道を森へ向け歩き出した。 襟元から膨らんだ胸を見た時は、正直言って困惑した。 女がネゴシエータになりたいと望むなど、前代未聞だ。 だが。 とエリックは考えた。 帽子のひさしの下から覗いた強い眼差しを見て、直感的に思った。 コイツ、本気だ。 村の馴染みの者達にばれないように、男装までして自分に弟子入りを申し出た少女。 おそらくあの娘はよほどの覚悟をもって、竜使いになる事を望んでいるのだ。 エリックはそれを確かめてみたくなった。 だからあえてあの少年たちの前では彼女の正体を明かさずに、密やかに弟子候補に選んだのだった。 もちろん、竜使いへの道は生半可なものではなかったが、果たして彼女がどこまでやれるのか、試す価値は十分にありそうだ。 森へと分け入って行くエリックの足元で、パシパシっと、枯れ枝が音を立てた。 ふと目を上げると、少し開けた空間に、あの少女が立っていた。 彼女はもう、少年のふりをしてはいなかった。 もう身を隠す必要がないとでもいうのだろうか? 後頭部で束ねたブルネットの髪。解けばおそらく、背中の辺りまで来るだろう。 ゆるく波打つ癖毛だ。 するりと滑らかに伸びる項。 髪とは対照的に白い肌。 大きな翡翠色の瞳が、緊張で少し震えているようだった。
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