第二章 動き始めた運命

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老人の目は年老いたもの独特の少し濁った水色をしていたものの、しっかりとした視線をエリックに向け言い放った。 「まず最初に言っておくがの。ワシはネゴシエータなどという輩は大嫌いじゃ!」 老人の痛烈な一言にもエリックは涼しげに笑った。 「…そいつはどうも。だが、そのネゴシエータに自分から近づいたのはアンタの娘さんの方だ」 老人の顔が憤りにむっと赤く染まった。 「フン!うまいことを言いよって!ふた月前あんな目に遭ったルーナが、自分からネゴシエータのアンタの元に赴くわけがなかろう!」 エリックは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ問うた。 「ふた月前?」 「そうじゃ!あの日も流れ者のネゴシエータが、あんたと同じようにあの酒場にやってきた。竜使いに憧れるあの子は村のガキどもと肩を並べ弟子入りを申し込みに行った。あの野郎、あっけなくルーナを弟子に選びよった。だが、それは罠じゃった。弟子入りを餌におびき寄せたあの卑劣な男は、人気のない場所にルーナを連れ込んであの子を襲ったんじゃぞ!?」 「何…だと…!?」 「寸でのところでワシが助けに入った。もう一時遅ければあの子は…!!」 老人は思い出したくもない恐ろしい光景を思い浮かべてしまったのか、乾いた唇をギリと噛み締め苦しげに顔を背けた。 エリックは横たわるルーナの寝顔につと目をやった。 激しい憤りに背筋がゾクリとざわついた。 そのネゴシエータを語る下劣な男に対する強い憎悪からだった。
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