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エリックはゆっくりと視線を老人に戻した。
何もかもを煮溶かすような熱い眼差しに、老人は一瞬たじろぐ。
「爺さん。よく聞いてくれ」
声を低めエリックはゆっくりと話した。
「厳しい修行を重ねネゴシエータになった者は、生涯誇りをかけてこれを生業にするんだ。その肩書きを利用し、女を手篭めにするなどという愚かな行いは決してしない」
「だが事実ワシはあの卑しい男がルーナに襲いかかっとるのをこの目で見たんじゃ!」
同業者でない限り、外見からネゴシエータだと見当てることは非常に難しい。
本格的な武具を身につけた者もあれば、ごく普通の民と変わらぬ様相の者もいる。
竜を連れているならば間違いなくそれだと一般人にも分かるのだが、四六時中竜を伴い行動する事は殆どの場合ない。
その事がそういう姑息で下劣な男のうまい隠れ蓑になっているのだろう。
「そいつは恐らく本物のネゴシエータではない」
「フン!ならアンタ自身はそれを証明できるというのか?本当に自分がネゴシエータだと、この場で証明する事ができるのか?どうなんじゃ!?」
その時。
「いいえ…エリックの…彼の言うとおりよ、おじいちゃん」
弱々しい掠れ声がベッドから聞こえ、二人はそちらを見た。
「ルーナ!おお、気が付いたんじゃな」
「…。」
ルーナはむくりとベッドから起き上がり、続けた。
「あたし、分かったの。昼間店でこの人に会った時。…こういう人こそが、正真正銘のネゴシエータなんだって。彼の目を見て、おじいちゃん。
気高くて、誇り高くて、吸い込まれそうにまっすぐな瞳。──────」
ルーナの翡翠色の瞳が、じっと彼女を見返すエリックの蒼海色の瞳とぶつかった。
不意に弾かれるようにベッドから飛び降り、ルーナはエリックの方へ向き直ると厳かに胸に手を当て深々と礼をした。
「お願いです……あたしを弟子にして下さい!」
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