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ふと手を伸ばした
伸ばした指先は換気扇の薄汚れたボタンを押す
耳の奥で玉ネギがはぜる音がした
油が飛んできて腕に当たる(ちりっ)
焦げ臭い匂いと甘い匂いが換気扇の中へ吸い込まれて
部屋一杯を占領していた匂いは(玉ネギと生姜とが混ざった)
外へ流れ出して行く
きっと 風の中で (この匂いは)薄まって消えて行くのだろう
風の中で薄まり 混ざり合った匂いを 嗅いでみたいと思った
草の 花の 木々の 土の 水の 混ざった玉ネギと生姜
それでもわたしは外には出ないし
今も こうして家族という誰かの為に台所に立っている
夕日が射してきて わたしの影を造る
まな板の上の包丁が 影を薄く造ってた
鍋から上がる湯気が夕日に照らされて 幻想的で
それでもわたしは動きを止めないし 夕日に照らされたものに見惚れたりはしない
忙しなく動くわたしの影は絶えず折れたり曲がったりしていた
夕日が部屋の中へ真っ向から射してきて 汗が 首をするっ と撫でた
Tシャツの中も 汗ばんで気持ちが悪い
湯気が 鍋から勢いよく上がって 眼鏡を曇らせる
そして漸く わたしは手を止め 顔を上げた
曇ったレンズのままで見る 窓の向こうの夕日は
ぼやけて 柔らかく そして 眩しい
ジットリと額が汗ばんで わたしは気付いた
季節が夏へと 移り変わろうとしているのだと
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