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彼等は持っている荷物の中で一番上等で清潔な服に着替えをしており、着替えが終わった者から崖のそばに行く、日本の方角に深々と頭を下げると崖から飛び降りた。 怖がって泣き叫ぶ幼子を母親が宥め胸に抱きしめ、共に飛び降り、姉妹らしい少女2人が手と手を握り合い、声を合わせて崖から飛んだ。 中には頭上で口々に説得の言葉を口にしている海兵隊員に、笑顔で頭を下げてから飛び降りる者もいた。 日系2世の彼も知っている限りの日本語で、他の兵士と共に呼びかる。 「おはよう、こんにちは、いたきます、ごちそうさま、おやすみなさい、止めんか、馬鹿者、バカヤロー」 「surrender」 「Noー」 呼びかけながら、昔父親に日本人の事を教えられた時。 日本人は誇り高い民族であり、捕虜の辱めを受けずと聞かされた事を思い出す。 あれは軍人だけの話しだと思っていた彼には衝撃であった。 日本人達は、崖上から投降を呼びかける海兵隊員達を無視して次々と飛び降りる。 崖下には、白い帽子に白いブラウスとスカート姿で、左手に開いていない日傘を持った20歳前後の綺麗な女性だけが残っていた。 彼女は日系2世の彼の方を向き、彼を恋人と見間違えたのか。 満面の笑顔で右手を精一杯伸ばし、飛び跳ねるように手を振る。 彼女は手を振ったあと、後ろを向き何も無い空間に足を踏み出した。 海兵隊員達が海を見下ろせる位置に行くと、海には20数人どころか数百人の日本人の遺体が漂い。 それと共に、波間を、白い花びらを思わせるように帽子が漂っていた。
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