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「尾上様、お届け物にあがりました」
あくまでも私は広告塔。決して態度は崩さず、礼節を失わず……。極力目を合わさないように礼をして。さあ。
「では」
自分を鼓舞し、去ろうとする彼女に、
「お茶ぐらい飲んでいけばいいのに」
といつものように声がかかった。
「いえ、おかまいなく」
いつものように返ってくる答えを鼻で笑う慎は、シニカルな笑みを浮かべている。
私が知らない種類の感情の動きを、人を小馬鹿にするような笑いを、いつ覚えたのだろう。三郎兄と話しているようでイライラする。
「お食事はダメ、お礼も一切ダメ、茶すらお断り。高遠のお嬢様はお高くとまってらっしゃるのだね。それとも、恋人が怒るのかな」
弾かれるように、茉莉花は振り返った。
あなたに何がわかる!
感情を露わにする視線を送ってしまう。一瞬だけど、隠せない心は困惑だ。
私だってどうしたらいいかわからないのに、慎さんならわかるというの!
「まあ、強いて引き留めはしない」
彼女の視線を受けてひるまず、静かに言う。
「迷惑をかけた。ありがとう。もう良いよ」
伏せた彼の視線が痛くて、彼女は逃げるようにその場を後にした。
傷付いたような目をする。
まるで私が悪いみたいじゃない。
――奥様が、帰る家があるくせに。何故、あなたが?
どうしたらいいか、わからない。
どうか、私を揺さぶらないで。
茉莉花は閉じた扉の向こうで、両手で顔を覆った。
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