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◇ ◇ ◇
社内は間近に控えた国際線就航の話題でもちきりだった。誰が外国へ飛べるようになるのか、同僚は色めき立つ。
そして、茉莉花は同僚から「おめでとう」と囲まれた。
彼女に国際線乗務員内定の辞令が出たからだ。
近々に訓練が始まり、乗務もしばらくお預けになる。次に飛ぶのは行く先が日本ではなく外国の空だ。
潮時のひとことが脳裏に浮かんだ。天の神様はよくご存知だ。
仕事も一区切りつく、先が見えない想いにも封をするには絶好の機会だと仰っているのだ。その通りだわ。
忘れよう、今度こそ。
口にしてはいけない想いを断ち切る。言ったが最後、ごまかせなくなるから。
だから、ここで言うわ。私しか聞いている人はいないから。
愛しているわ、慎さん。
大好き。
溢れる想いを言葉に乗せて、送迎デッキから空を仰ぐ。後れ毛を風に遊ばせて、茉莉花はひとり唇に手を添え、そして口付けを、青天へ向けて投げて飛ばした。
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