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「ただいま、りょうさん。」
隆が帰ってきたのは、23時過ぎだった。俺は待ってるつもりがソファでうたた寝をしてそのまま爆睡してしまっていたが、隆が俺の髪を触る感触で目を覚ました。
「おかえり。遅かったな。」
俺は目を擦りながら隆の手を少しだけ触った。隆は横になっている俺の体に恐る恐る近づいて、ぴたっと身を寄せてきた。
「ごめんなさい。」
「何が。」
その理由は俺も隆も十分にわかってることだ。でも俺は、あえてお前に言わせたいと思っていた。
「縛って、ごめんなさい。」
「それから?」
「痛くして、ごめんなさい。」
「それから?」
「目隠し…」
「何?聞こえない。」
「嫌いなの…俺…知ってるのに…目隠し…してごめん…なさ…うう…」
隆の涙を、俺は久しぶりに見た気がした。
怒りが、溶かされていく。
泣き顔って、こんなにそそるものだったのか。
そうだ、俺が悪かった。元はと言えば俺が最初にやり始めたことだ。
プリン、もっと普通に食べればよかったな。
モンブラン、お前ももっと普通に食べたかったよな。
お前もしかして手紙書いた後、泣きながら食べたんじゃないのか。
手紙の文字が、一つだけ滲んでたぞ。
計算か?そんなに捻くれてないよな、お前は。
「隆、いいって。もういいって。」
「ごめんなさい…もうしない…から…りょ…さん…」
俺は下から見上げる隆の顔を少し愛しく思い、こういう場合はこの体勢の方が恋人の顔はこんなにも可愛らしいと思えるのかと、新たな発見をしたんだ。
「隆、俺もごめん。」
「りょうさん悪くないもん。俺が…」
「ごめん。まじでごめん。」
「りょうさん…の“ごめん”って…優しいから…好き…うう…」
「優しい?」
「言い方…優しいから好き…」
「ごめんな。」
そしてその夜俺は、隆の好きなその言葉で何度もやさしく隆自身を包みこんであげたんだ。
to be continued...
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