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「だ、だけど…。 俺はこれからも、お前とは友達でいたいし。 …今まで通りにいたいんだけど…それ、無理なのか?」 勢いはどこへやら。 友達じゃなくなるとしたら…って考えると、少し寂しい気がした。 「………」 「………」 束の間の沈黙。 破ったのは冬原だった。 「…べつに、お前は今まで通りでいーんじゃね?」 すぅ、はぁーーー。 深く息が吐き出され、無意識に振り向くと、そこにはどこかすっきりした顔があって。 「俺は、お前のこと振り向かせるように努力するから。 お前は今まで通りでいい」 えぇっ。 思いがけない返答がきて、俺は仰け反った。 振り向かすって!努力って! 友達じゃなくね!それ!! 俺は今まで通りに普通にしたいんですけど! それ、普通じゃなくね! 「はは…」 俺があわあわしてるのを見つめながら、またさっきと同じ顔でふわっと微笑んだ。 うわ、その顔心臓に悪い!! 「あーー、よかった。……言って」 人のことは全く無視して、冬原はよっと立ち上がりのびーっとする。 くそっ、その長い手足と身長俺に分けろし。 「以上。 …行こう、夏川」 信じられないほど爽やかな笑顔の冬原は、俺へとその長い腕を差し出す。 ちっ、くそ! またその顔に音を立てる胸の奥に戸惑って。 俺はその手をスパーンッと叩き落とす。 「いっ!」 「バーカ、ふざけんなバーカ!」 また柔らかく頬を撫でて行く、その他人事のような生暖かい風に、今度は無償に腹が立った。
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