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『可哀想に……』
美しい人でした。僕を見て、はらはらと花が散るように涙を零しました。
護身用にと持って来たという短銃を僕の指定席である真っ赤なソファに置くと、懸命に拘束を解こうとしてくれました。
『主人が……本当にごめんなさい……』
そこで初めて、彼女が貴方の奥様なのだと気付きました。
僕は不思議でした。こんなにも美しい人が側にいるのに何故、貴方は歓楽街の裏道で膝を抱え、人生に絶望していた僕を拾ってくれたのでしょうか?
『何をしている』
冷たい声に美しい人は息を飲みました。
その表情は見る見る内に青ざめ、次いで小さな呻きを残しました。
ゆっくりと細い体が傾ぎ、そのまま僕の足元に倒れていく。
上質な絹のブラウスには、真っ赤な花が咲いていました。
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