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気のせいか、彼の耳はほんのり赤い。
照れている、と思う。
多分、はじめて見る。
いつもすましている分、余計に意外だ。
「とりあえず連続で原子爆弾が爆発してるって覚えたらいいよ」
「……ぷはっ」
我慢、できなかった。
久しぶりにツボをつかれてしまったみたいで、口元が緩んでならなかった。
この人にでも、恥ずかしくなることがあるんだ。
当たり前のことがこんなにも意外に感じる。
それがまた可笑しくて、更なる笑いを誘った。
ふいに意識は違うところに引き寄せられる。
文句なり野次が飛んでくるはずの横から、気配がピタリと止んでいたからだ。
おずおずと覗き込むように右に目をやると、こちらを見ている彼と視線が交わる。
左胸の奥底で、急速に膨れ上がっていく感覚に襲われる。
「…なんですか」
「いんや、美味しそうだなって」
………おいしそう?
既においなりさんは完食している。
突拍子もない言葉に、顔をしかめてしまう。
それにニンマリと笑った彼が、どことなくブラッキーに映る。
「な、なにが?」
「もっとそうやって笑えばいいのにってことだよ」
そう紡いだ声色がひどく温かみのあるものに感じた。
この世界に、あたしと彼の二人しかいないみたいだ。
二人の間を横切る気紛れな乾いた風を、頬が捉えたと同時に。
破られたシャボン玉みたく、パチッ…と、何かが弾ける音がした。
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