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会計を済ませ店を出たら
「侑李。」
腕を掴まれた。
「やっぱり侑李だ。後ろ姿見て侑李だって分かった。」
いつもの直の声。
『…離して…客と一緒なんでしょ?早く行かなきゃ。尚夜。』
嫌な言い方。
分かってる。わざと言ったから。
「…侑李?何か怒ってる?」
私を引き寄せる様にして顔を覗き込んで来る直。
『…怒ってないわよ。私の判断は間違ってなかったって思っただけ。やっぱり何だかんだ言ってもホストよね。あれでしょ?直の方が演技だったんでしょ?私が堕ちないから。あんたのプライドで俺に堕ちない女はいないはずってやつでしょ。それとも誰かと賭けでもしてたの?1か月で私を堕とすって。だから、必死に良い男を演じてたの?あー。そうか。それか。でも、残念だったわね。2週間で追い出されたもんね。』
直に視線を向ける事も無く、ただ必死に捲し立てる様に言葉を並べた。
「…侑李。それ本気で言ってんの?」
腕を離した直が私を見つめて言った。
『…本気も何も。それが真実でしょ?あんたは根っからのホスト。早く客に甘い台詞吐いて貢いでもらいなさいよ。大好きだって誰にでも言いなさいよ…もう…2度と会わない…連絡もしない…直なんて…大嫌い!』
直は黙って私の言葉を聞いていた。
私はその場から走って立ち去った。
気付いたらマンションに戻っていて。
ベッドに伏せて泣いていた。
直は仕事をしていただけ。
分かってる。
分かってるけど。
でも、誰にでも甘い台詞を吐いてその気にさせる。
きっと私もその中の一人だったんじゃないかと思ったら苦しかった。
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