第1章

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「暑い……なんでこんな炎天下に一日座ってなくちゃいけないんだ……」  観戦用のいすを運び出しながら、僕は文句を垂れた。初夏というのはあまりに本格的過ぎる太陽が、じりじりと背中を焼く。 「仕方ないですよ。熱中症にだけ注意して、耐えるほかないです」  うう、そんなことを言われたって……。  今日は前々から練習を積み重ねてきた、体育祭の本番であった。  女子高なのに体育会系が多いうちの学校は、早くも闘志とやる気に満ち溢れた熱気をむんむんと発していたが、僕はと言えば体育は2の完全に文化系なもので、始まる前から早くもへばっていた。  ああ、暑い。なんて暑いんだ。熱気で更に暑いよ……暑い。  暑さでぼんやりして、暑いという単語しか浮かばなくなった僕に、友達の一人が呆れたように話し掛けた。 「もうだらしないなあ……そんなんで、組体操のてっぺんから落ちちゃったりしないでよ? ほら、これあげるからしっかりして!」  ばしっと痛いくらいに背中を叩きつつ、彼女はスポーツドリンクを投げてくれた。ありがたいけど、反射神経が鈍り気味だった僕はそのボトルを取り損ね、顔に思い切りぶつかって無様にも大きくのけぞった。  地味に痛い。 「大丈夫ですか? 近江さん」 「……うん。大丈夫、大丈夫」  うう、恥ずかしい。しっかりしなくちゃ。  2ー3と石灰で大きく書かれただけの陣にいすを置き、一息つく。まんまグラウンドなので遮るものは何もなく黒焦げになってしまいそうだが、基本日陰に移動することは禁止で、日傘もだめらしい。  これは熱中症患者を量産するぞ……。  せめて日焼けで水ぶくれを作らないようにと日焼け止めを塗ったが、これだって果たして効き目があるのかどうか。
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